しみるのは、歯医者が下手だから?
- しみるのは薬が歯の中まで届いて神経の側を刺激するからです。
- およそ2人に1人が経験し、しみた期間が3日以内だった方が77%でした。
- 濃度を上げても白さは増えず、しみだけ増えます(25〜35%より上)。
- 誰がしみるかを事前に当てる方法は、まだ確立していません。
しみた、という話を聞いて足が止まっている方へ。
この記事でお伝えしたいのは、しみる仕組みと、そこに術者の判断がどれだけ関わるかです。結論から書きます。しみるかどうかは、腕だけでは決まりません。ただし、腕で変えられる部分も確かにあります。その線引きを、研究データで分けていきます。
01しみるのは、薬が歯の中まで届くから
ホワイトニングの主役は過酸化水素です。これが歯の表面から中へ入っていきます。
エナメル質を通り、象牙質の細い管を通って、歯の神経(歯髄)の側まで届きます。そこで活性酸素が生まれます。活性酸素が神経を刺激する経路まで、実験で確かめられています。
エビデンス:中 抜いた歯のエナメル質・象牙質を薄く切り出し、その裏側でヒトの歯髄の細胞を培養して、表から漂白ジェルを塗る実験です。活性酸素がTRPA1という受容体を開き、細胞からATPが放出され、痛みを感じる神経が刺激される流れが示されました(Chen 2021・細胞と動物の実験)。
ただし、歯が溶けたり欠けたりしているわけではありません。神経の側が一時的に反応している状態です。だから多くは時間とともにおさまります。
そしてもう一つ。この経路は、薬を使う以上どうしても通ります。誰が担当しても、ゼロにはできません。
02およそ2人に1人が経験している
エビデンス:強 臨床試験11本をまとめた解析では、しみを感じた人の割合はホームで51%、オフィスで62.9%でした(Rezende 2016)。同じ研究で、もとの歯の色と、ホームかオフィスかが、しみやすさを分ける要因として挙げられています。
実際の診療現場での調査もあります。北欧の一般診療所と大学病院で171名を追跡したところ、14日後にしみを訴えた方はホームで50.3%、オフィスで39.3%。両者に統計的な差はありませんでした(Bruzell 2013)。
半分前後の方が経験します。しみたとしても、特別なことが起きたわけではありません。
03多くは、数日でおさまります
エビデンス:中 14日間のホームホワイトニングの期間中、5種類の刺激について毎日しみを記録してもらった調査では、参加者の47%がしみを経験し、しみた期間が3日以内だった方が77%でした(Browning 2007)。温度でしみる症状は期間の後半に出やすく、舌の刺激感は前半に出やすい傾向がありました。
エビデンス:中 10%過酸化尿素を使い、使用をやめた7日後まで測った試験もあります(Briso 2018・25名)。自発的な痛みを訴えた方は7日目の40%がピークで、使用をやめて7日後には、しみを訴えた方はいませんでした。
長い目で見た数字もあります。先ほどの北欧の調査では、約1年後に副作用を訴えた方は171名中5名でした。
04「濃ければ白くなる」は、そう単純ではない
薬の濃さをどこに置くかは、術者が決めています。まずその中身から。
エビデンス:弱 薬の濃度を上げると、白くなるのは速くなります。抜いた歯を使った実験では、同じ目標の白さに届くまでに、濃度5%では最大12回、35%では1回で済みました(Sulieman 2004・抜去歯を用いた実験)。
では濃ければ濃いほどよいのか。そうではありません。
エビデンス:強 システマティックレビュー24本をまとめた解析は、中程度の確実性のエビデンスとして、過酸化水素およそ25〜35%は、それより高い濃度と同等の白さを得ながら、しみを減らすと整理しています。それ以上濃くしても白さの上乗せはなく、副作用だけが増える、という結論です(Hajeer 2026)。
逆に下げすぎた場合についても、比べた研究があります。
エビデンス:強 140名を6%と35%の2群に分け、どちらの群か本人にも評価者にも分からない形で行った試験です。しみを感じた人の割合は6%群で44%、35%群で74%。一方で白さは同等にならず、35%群のほうが一貫して上回りました(Centenaro・ランダム化二重盲検試験 n=140)。
濃度については、2つのことが言えます。
- 上げすぎても、白さは増えず、しみだけ増える
- 下げすぎると、しみは減るが、同じ期間では届かないことがある
濃さは、強さの目盛りではなく、選ぶ場所です。どこに置くかは、歯の状態と、どのくらいの期間で進めたいかによって変わります。
参考までに、当院がオフィスで使っているホワイトニング材は、混ぜたあとの過酸化水素がおよそ23%です。可視光に反応する光触媒(酸化チタン系)のはたらきを応用していて、メーカーは「比較的低濃度でありながら」と説明しています。研究が「これ以上濃くしても白さは増えない」とする25〜35%の、下端付近にあたります。
05光を強く当てても、白さは変わらない
もう一つ、よくある誤解です。
エビデンス:強 先ほどのシステマティックレビュー24本の統合は、LED・ハロゲン・レーザーによる光照射は白さを改善しなかったと整理し、むしろしみを増やす可能性を指摘しています(Hajeer 2026)。
光を当てる設計そのものが悪いのではありません。光の強さで白さを買おうとすると、しみだけが増えます。
06しみやすい歯には、そもそも使いません
材料には、メーカーが定めた使用条件があります。当院で使っているものでは、次の歯には使わないことになっています。
オフィス
- すでに知覚過敏がある歯
- むし歯のある歯
- 象牙質が露出している歯
- 歯根が露出している歯
- 合っていない詰め物・被せ物のある歯
ホーム
- すでに知覚過敏がある歯
- むし歯・くさび状欠損・咬耗・ひびのある歯
無カタラーゼ症の方、妊娠中・授乳期の方も受けられません。オフィスでは気管支炎・喘息・光線過敏症の方も対象外です。
このしみやすい状態を見つけるのは、歯科医師・歯科衛生士の診断力(腕)と言っても良いでしょう。
07しみるのは対処できます。ただし、ゼロには出来ません
では、いざしみてしまった時にはどうしたら良いのでしょうか?1つは薬です。しみをおさえる薬剤についても研究があります。
エビデンス:強 硝酸カリウムとフッ化ナトリウムを使った試験をまとめた解析です。使わない場合と比べて、しみの発生のオッズ比は0.45、しみの強さも下がりました。歯の色の変化については一貫した結論が得られておらず、白さを犠牲にしてしみを抑えているとは言えません(Wang 2015)。
ただし、個別の試験では結果が一致していません。発生する人の割合は変わらず強さだけ下がった、という報告も、変わらなかったという報告もあります。
減らせる手はあります。なくす手はありません。
ホームの材料は、濃度と装着時間の組み合わせが違うものを複数そろえています。短い時間で短期間に進めるものと、低い濃度で長めに使うものがあります。
どちらが優れている、という話ではありません。選ぶ基準は、生活のリズムとご本人の性格です。毎日きちんと続けるのが苦にならない方と、短期集中でないと続かない方では、向くものが違います。しみた経験のある方に向く設計のものもあるので、ご希望をうかがって決めます。
08誰がしみるかは、まだ予測できません
しみやすさについて、集団としての傾向は分かっています(もとの歯の色、ホームかオフィスか)。しかし、目の前のあなたがしみるかどうかを事前に当てる方法は、研究の世界でもまだ確立していません。
エビデンス:強 1991年から2015年までの対照試験136本から18本を選んで検討したレビューです。タイトルからして「未解決の問題」とされており、本文でも「エビデンスに基づく説明を見つけることはできなかった」と述べられています。研究ごとに測り方も評価の仕方もばらばらである、と指摘されています(Kielbassa 2015)。
事前の説明で「あなたはしみません」と言える根拠は、今のところありません。当院もそれは言えません。
09だから、試してみることを提案します
予測できないからこそ、試しやすい環境を作るのが大事なのでは?これが当院の考え方です。
下の前歯2本だけを先にホワイトニングして、しみるかどうかを実際に体験していただく方法をご用意しています。あわせて今の歯の色を色見本で測り、白くなりやすさの目安をお伝えします。
結果を持ち帰って、おうちで決めていただけます。当日の勧誘はしません。
しみは施術のあとから出てくることもあります。感じ方には個人差があります。
- しみるのは、薬が歯の中まで届いて神経の側を刺激するからです。薬を使う以上、この経路は通ります
- およそ2人に1人が経験しています。しみた期間が3日以内だった方が77%。ただし長引く方もいます
- 腕で変えられるのは、濃度をどこに置くか/光に頼りすぎないか/使わない歯を先に見分けるか
- 腕では変えられないのは、個人差と、事前の予測です
- だから当院では、試してもらいやすい環境を整えています
- Chen C, Huang X, Zhu W, Ding C, Huang P, Li R. H2O2 gel bleaching induces cytotoxicity and pain conduction in dental pulp stem cells via intracellular reactive oxygen species on enamel/dentin disc. PLoS ONE. 2021;16(9):e0257221.(細胞・動物の実験)
- Rezende M, Loguercio AD, Kossatz S, Reis A. Predictive factors on the efficacy and risk/intensity of tooth sensitivity of dental bleaching: A multi regression and logistic analysis. J Dent. 2016;45:1-6.(臨床試験11本のプール解析)PMID 26612623
- Bruzell E, Pallesen U, Thoresen N, Wallman C, Dahl JE. Side effects of external tooth bleaching: a multi-centre practice-based prospective study. Br Dent J. 2013;215:E17.(多施設前向き調査 n=171)
- Browning WD, Blalock JS, Frazier KB, Downey MC, Myers ML. Duration and timing of sensitivity related to bleaching. J Esthet Restor Dent. 2007;19(5):256-64.(14日間の毎日記録)PMID 17877624
- Briso ALF, Rahal V, de Azevedo FA, et al. Neurosensory analysis of tooth sensitivity during at-home dental bleaching: a randomized clinical trial. J Appl Oral Sci. 2018;26:e20170284.(ランダム化・二重盲検 n=25)
- Sulieman M, Addy M, MacDonald E, Rees JS. The effect of hydrogen peroxide concentration on the outcome of tooth whitening: an in vitro study. J Dent. 2004.(抜去歯を用いた実験)PMID 15053912
- Hajeer O, Hasan A. In-office tooth bleaching protocols: an umbrella review of systematic reviews and meta-analyses on whitening efficacy and tooth sensitivity. Saudi Dent J. 2026;38(4):39.(システマティックレビュー24本の統合)
- Centenaro GG, Favoreto MW, Carneiro TS, Cordeiro DCF, Loguercio AD, et al. Efficacy and Tooth Sensitivity of Low- Versus High-Concentration Hydrogen Peroxide for In-Office Bleaching: A Randomized Clinical Trial. J Esthet Restor Dent.(ランダム化・二重盲検 n=140)doi:10.1111/jerd.70090
- Kielbassa AM, Maier M, Gieren AK, Eliav E. Tooth sensitivity during and after vital tooth bleaching: A systematic review on an unsolved problem. Quintessence Int. 2015;46(10):881-97.(システマティックレビュー・18試験)PMID 26396993
- Wang Y, Gao J, Jiang T, Liang S, Zhou Y, Matis BA. Evaluation of the efficacy of potassium nitrate and sodium fluoride as desensitizing agents during tooth bleaching treatment—A systematic review and meta-analysis. J Dent. 2015;43(8):913-23.(システマティックレビューとメタアナリシス)PMID 25913140
