歯の表面を荒らしてるだけ?
- 色が見えるのは着色の分子が光を吸収しているから。二重結合のつながりが切れると吸収しなくなります。
- 削っても溶かしてもいません。ミネラルを溶かした歯は、明るくなるどころか暗くなりました。
- 有機質を先に取り除いた歯は、酸化しても色が変わりませんでした。
- 表面を削って白く見せているのは市販の研磨性の歯磨き粉のほうです。
歯の表面を薬で荒らして、光の反射を変えて白く見せているだけではないのか。ホワイトニングを調べていくと、こういう疑いに行き当たります。
結論から言うと、違います。削っているのでも、溶かしているのでもありません。色のもとになっている分子そのものを、化学的に分解しています。それを直接確かめた実験があるので、順に見ていきます。
01そもそも「色がついて見える」とは何か
歯の着色の正体は、発色団と呼ばれる分子です。二重結合が長くつながった構造をしていて、この長さが光の吸収のしかたを決めています。
ものに色が見えるのは、その分子が特定の色の光を吸収するからです。吸収されなかった光が目に届いて、色として見えます。
エビデンス:中 レビューによれば、着色のもとは①二重結合が連なった大きな有機化合物と、②金属を含む化合物の2種類です。過酸化水素による漂白は、この二重結合と反応して酸化することによると整理しています(Carey 2014)。
つながりが切れると、その分子はもう可視光を吸収しません。色が「落ちる」のではなく、色が「消える」という言い方のほうが近いところです。
02削って白くしているなら、こうはなりません
ここからが本題です。「表面を荒らしているだけ」なのかどうかを、直接調べた実験があります。
エビデンス:中 抜いた歯60本を6つの群に分け、4日間それぞれ違う処理をして明るさを測った実験です。処理は①有機質を取り除く ②ミネラルを溶かす ③酸化するの3種類(Eimar 2012)。
結果はこうでした。
- 有機質を取り除く 明度 +4.8
- ミネラルを溶かす 明度 −8.5(暗くなった)
- 酸化する 明度 +19.9
ミネラルを溶かした歯は、明るくなるどころか暗くなりました。もし「溶かして白く見せている」のが正体なら、この結果にはなりません。
さらに決定的な群があります。有機質を先に取り除いておいた歯を酸化しても、色は変わりませんでした。酸化が相手にしているのは、ミネラルではなく有機質でした。
著者の結論は、過酸化水素は有機質やミネラルの量を大きく変えるのではなく、有機質を酸化することで歯を白くするというものでした。
※抜いた歯を使った実験です。口の中で同じ数値になることを示したものではありません。
03「表面を荒らす」のは、むしろ別のもの
疑いの向け先が違っている、という話をします。表面を削る仕組みで白く見せているものは、実際にあります。
エビデンス:弱 市販のホワイトニング歯磨き粉について、7本の研究をまとめたシステマティックレビューがあります。歯磨き粉を使った群では、歯の表面が有意に荒れていました。
そしてJamwal 2022 の著者は、ホワイトニング歯磨き粉が歯の表面を荒らす理由を「ペーストの研磨性、または特定の化学成分による」と整理しています。
表面の着色を物理的にこすり落とすのと、内部の色素分子を化学的に分解するのは、別の現象です。
「表面を荒らしているだけ」という疑いは、こすり落とす歯磨き粉には当たっています。歯科の漂白には当たっていません。
04では、エナメル質は無傷なのか
そこまでは言えません。ここは正確に書いておきたいところです。
エビデンス:中 ホワイトニングの機序と安全性をまとめた Carey 2014 のレビューは、攻撃的な漂白(aggressive bleaching)では、エナメル質の脱灰と結晶性の低下が起こりうると述べています。 論文が使っている語は aggressive、そのまま訳せば「攻撃的な」です。濃く、長く、繰り返し当てるような使い方を指しています。
起きていることは、こうです。漂白剤のpHが酸性に傾くと、水素イオンがエナメル質の結晶を攻撃して壊し、カルシウムとリンが表面から溶け出します。
一方で Carey 2014 は、表面はやわらかくなったものの、溶けて減ってはいなかったという研究も紹介しています。そして結論は「メーカーの指示に従って使用する場合、安全かつ有効である」です。
色が変わる仕組みと、表面に起きることは、別の話です。白くなるのは酸化によるもので、表面がやわらぐかどうかは濃度・時間・使い方の問題になります。そして表面に何が起きるのかは、研究の条件によって結論が変わるところなので、別の記事で詳しく扱います。
05当院が濃度を上げない理由
色を変えているのが酸化である以上、必要なのは反応であって、濃度ではありません。
濃度を上げれば反応は速くなります。ただし研究では、ある範囲を超えると白さは増えず、しみだけが増えることが示されています。当院がオフィスで使っているホワイトニング材は、混ぜたあとの過酸化水素がおよそ23%です。
高い濃度ほど白くなる、という道具ではありません。分子が分解されるのに必要なだけ反応させて、必要以上の濃度は使わないように考えています。
- 色が見えるのは、着色の分子が光を吸収しているから。二重結合のつながりが切れると吸収しなくなります
- 削っても溶かしてもいません。抜去歯の実験では、ミネラルを溶かすと明度は−8.5で暗くなり、酸化すると+19.9でした
- 有機質を先に取り除いた歯は、酸化しても色が変わりませんでした。酸化の相手は有機質です
- 表面を削って白く見せているのは市販の研磨性の歯磨き粉のほうで、歯科の漂白とは仕組みが違います
- ただしエナメル質が無傷だとまでは言えません。濃度・時間・使い方の問題として、別の記事で扱います
- Eimar H, Siciliano R, Abdallah MN, Nader SA, Amin WM, Martinez PP, Celemin A, Cerruti M, Tamimi F. Hydrogen peroxide whitens teeth by oxidizing the organic structure. J Dent. 2012;40 Suppl 2:e25-33.(抜去歯60本を6群に分けた実験・各群10本)PMID 22925924
- Carey CM. Tooth Whitening: What We Now Know. J Evid Based Dent Pract. 2014;14(Suppl):70-76.(レビュー)
- Jamwal N, Rao A, Shenoy R, et al. Effect of whitening toothpaste on surface roughness and microhardness of human teeth: a systematic review and meta-analysis. F1000Res. 2022;11:22.(システマティックレビュー7本/メタアナリシス4本・いずれも試験管内の研究)
