読む相談室 > 第3不安を解く 抜歯のとき勧められる骨の処置、断っていい?
CHAPTER 3不安を解く

抜歯のとき勧められる骨の処置、断っていい?

この記事で分かること
  1. 抜くと骨は痩せます。6か月で幅が平均3.79mm・29〜63%。その多くは最初の3〜6か月に集中します。
  2. 処置をすると幅1.18mm・高さ1.35mm 痩せ方が小さい。ただしコクランは、この結果の確実性を「非常に低い」と評価しています。
  3. 後で骨造成が要るかどうかに、差は示されていません(0.68・95%信頼区間 0.29〜1.62)。「効果が無い」ではなく「そこまでは確かめられていない」です。
  4. 痩せ方が7倍違う場所があります。分かれ目は頬側の骨の厚みで、CTで測れば分かります。
  5. 受けなくてよい場合があります。断ったあとで骨が足りなくなっても、そのときに造る方法は残ります。
  6. 費用は100,000円(税込・自由診療)。リスクと起きうることも載せています。

「この歯は抜きましょう。抜くと骨が痩せるので、同時に骨を入れておきますね。10万円です」。

抜歯の説明の場でそう言われて、この記事を開いた方が多いと思います。次の予約までに決めてください、と言われている。調べる時間は数日しかない。断ると将来インプラントを選ぶときに困る気がするし、受けると効くかどうか分からないまま10万円を足すことになります。

この記事は「受けましょう」とも「要りません」とも言いません。あなたの口の、その歯の場所で、どちらなのかを分けるための物差しを出します。研究が答えているところと、答えていないところを分けて書きます。

01まず、その処置は何をするのか

歯を抜いたあとの穴(抜歯窩)に、骨のもとになる材料を詰めて、上を膜や人工の材料でふたをする処置です。ソケットプリザベーション、あるいは歯槽堤保存と呼ばれます。研究の世界では alveolar ridge preservation、略してARPです。

やるとしたら抜く日しかありません。抜いたあとの穴が残っているうちに詰める処置なので、後日に思い立ってもできない。ここが、この判断を急かされたように感じさせる理由です。急いでいるのは骨の側の事情ではなく、術式の側の事情です。

02抜くと、骨はどれだけ痩せるのか

勧める側の前提は正しい。歯を抜くと、その歯を支えていた骨は痩せます。

エビデンス:強 20本の研究をまとめたレビューでは、抜歯から6か月で歯ぐきの外側から内側への幅が平均3.79mm減り、割合にすると29〜63%。高さのほうは頬側で平均1.24mm、割合で11〜22%と報告されています。

根拠|20の研究をまとめたシステマティックレビュー。ヒトの再開創(実際に開けて測り直した)研究では、6か月で水平方向の骨の喪失が29〜63%、垂直方向が11〜22%。
Tan WL, Wong TL, Wong MC, Lang NP. Clin Oral Implants Res. 2012;23 Suppl 5:1-21. PMID 22211303
当院の成績ではなく、公表された研究の要約です。

もうひとつ、このレビューは吸収が最初の3〜6か月に集中し、その後はゆるやかになることも示しています。最初の数か月で大きく減り、そのあとは同じペースでは進みません。

エビデンス:強 痩せる量は歯の場所でも変わります。28の論文をまとめた別のレビューでは、X線での計測で、奥歯(大臼歯)の水平方向の減りが3.61mm、それ以外の歯では2.54mmでした。奥歯のほうが1mmほど大きく減っています。

根拠|28論文のうち20論文で定量解析。X線計測での水平方向の減少は、大臼歯部で3.61mm(95%信頼区間 3.24〜3.98)、非大臼歯部で2.54mm(1.97〜3.11)。著者の結論は「歯の種類によって、痩せる量には幅がある」。
Couso-Queiruga E, et al. J Clin Periodontol. 2021;48(1):126-144. PMID 33067890

ここまでは、勧める側の説明とほぼ同じです。問題はこの先にあります。

03同じ「抜歯」でも、痩せ方が7倍違う場所がある

エビデンス:中 上の前歯を対象に、抜歯の前後をCTで撮って3Dで比べた研究があります。39人を8週間追いかけたものです。この研究は、痩せ方を決めていたのが歯の種類ではなく、頬側にある骨の壁の厚みだったことを示しました。

骨の壁が1mm以下だった人は、抜歯窩の中央で高さが中央値7.5mm(元の高さの62.3%)減っていました。1mmより厚かった人は、中央値1.1mm(9.1%)です。同じ8週間で、7倍近い差があります。

根拠|39名39部位の前向き研究。抜歯前と8週後のCBCT(歯科用CT)を3Dで重ね合わせて計測。頬側骨壁の厚さ1mm以下が、吸収量に関わる決定的な因子として同定されました。薄い群は中央値7.5mm(範囲0.8〜12.2mm)、厚い群は中央値1.1mm(範囲0.7〜3.2mm)。減りが大きいのは抜歯窩の中央部で、隣の歯に近い側の変化はわずかでした。
Chappuis V, et al. J Dent Res. 2013;92(12 Suppl):195S-201S. PMID 24158340
上の前歯を対象にした研究で、他の部位にそのまま当てはまるかは確かめられていません。

つまり「抜くと骨が痩せます」は全員に当てはまりますが、その量は人によっても歯によっても違う。骨の壁が厚い人は、8週で1mm程度しか減っていない。

自分がどちらなのかは、見た目では分かりません。CTで測れば分かります。

04では、その処置でどれだけ食い止められるのか

コクランという、治療の効き目を厳しく評価することで知られる国際的な組織が、2021年にこの処置のレビューを出しています。16の無作為化比較試験、426人、524か所の抜歯窩が対象です。

確実性:非常に低い このうち、牛などの骨に由来する材料(異種骨)を詰めた場合と、抜いただけの場合を比べた6つの試験(184人・201か所)では、こうなりました。

  • 幅の喪失が 1.18mm 小さい(95%信頼区間 0.54〜1.82)
  • 高さの喪失が 1.35mm 小さい(95%信頼区間 0.70〜2.00)

処置をした側のほうが、骨の減りは少なくなっています。

ただし、このレビューはこの結果の確実性を「非常に低い(very low)」と評価しています。

根拠|無作為化比較試験16件・成人426名・524抜歯窩のシステマティックレビュー。異種骨と抜歯単独を比較した6試験(184名・201部位)で、歯槽堤の幅の喪失が平均差 −1.18mm(95%信頼区間 −1.82〜−0.54)、高さの喪失が −1.35mm(−2.00〜−0.70)。いずれも確実性は very low と評価されています。
Atieh MA, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021;4(4):CD010176. PMID 33899930

エビデンス:中 一方、2019年に別のグループが22の試験をまとめたレビューは、もう少し大きい数字を出し、結論も違う調子です。

  • 水平方向 1.99mm(95%信頼区間 1.54〜2.44)
  • 頬側の垂直方向 1.72mm(0.96〜2.48)

こちらの著者の結論は「歯槽堤の縮小をやわらげるのに有効な治療である」です。

根拠|25論文・22の無作為化比較試験をまとめたシステマティックレビューとメタアナリシス。骨補填材を用いた歯槽堤保存は、抜歯単独と比べて水平1.99mm(95%信頼区間 1.54〜2.44)、頬側中央の垂直1.72mm(0.96〜2.48)、舌側中央の垂直1.16mm(0.81〜1.52)の吸収を抑制しました。
Avila-Ortiz G, Chambrone L, Vignoletti F. J Clin Periodontol. 2019;46 Suppl 21:195-223. PMID 30623987

2本は矛盾していません。効果の向きは同じで、量も1〜2mm前後で近い。割れているのはその数字をどれだけ信じてよいかの見積もりのほうです。コクランは証拠の確実性を評価する手順を通したうえで「非常に低い」とし、もう一方は効果量をまとめた結果をそのまま結論に置いています。

読み方としては、「1〜2mmくらい違いそうだが、その1〜2mmという数字自体がどれくらい確かかは、まだ心もとない」あたりが実際に近いところです。

05いちばん知りたいことに、研究はまだ答えていない

ここまでは、ミリ単位の骨の話でした。あなたが本当に知りたいのは、たぶんこちらです。

この処置をしておけば、将来インプラントを入れるときに、骨を造る手術をしなくて済むのか。

コクランのレビューは、この問いも調べています。

  • 追加の骨造成が必要になった割合の比 0.68(95%信頼区間 0.29〜1.62)/4試験・154名

確実性:非常に低い 信頼区間が1をまたいでいます。処置をした人のほうが少なくなる可能性も、多くなる可能性も、この研究のかたまりでは外せていないという意味です。この転帰について、差は示されていません。

インプラントそのものの失敗率でも、結果は同じでした。

  • 失敗率の比 1.00(95%信頼区間 0.07〜14.90)/2試験・70名

信頼区間の幅を見てください。0.07から14.90です。これは「差がない」ことを示した数字ではなく、判断できるだけの情報がまだ無いことを示した数字です。

根拠|同じコクランレビューから。追加の骨造成の必要性はリスク比0.68(95%信頼区間 0.29〜1.62・4試験154名)、インプラント失敗率はリスク比1.00(0.07〜14.90・2試験70名)。いずれも very low certainty。審美的な結果・補綴的な結果を評価した試験は1件もありませんでした。
Atieh MA, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021;4(4):CD010176. PMID 33899930

著者の結論をそのまま訳すと、こうなります。「歯槽堤保存の術式は、抜歯6か月後の高さと幅の変化を全体として小さくするかもしれない。ただし証拠は非常に不確実である。インプラント埋入時に追加の骨造成が必要になるか、インプラントが失敗するか、審美的な結果がどうなるか、その他の臨床的な指標については、情報不足と長期データの不足のために、差があるという証拠が無い」。

「効果が無い」ではありません。「そこまでは確かめられていない」です。この2つは違います。処置を勧める説明では前者に触れず、断る理由を探す説明では後者を「効かない証拠」に読み替える。どちらも正確ではありません。

06材料の違いで選ばないでください

牛由来、ヒト由来、人工の材料、膜を使う・使わない。医院によって使うものは違います。

コクランのレビューは、これらの間に臨床的な差があるかどうかを判断するには証拠が足りないとしています。2019年のレビューも「どの術式が優れているかは、選ばれた証拠からは決められなかった」と書いています。

材料の名前や産地で勧められている場合、その説明を裏づける研究は現時点でありません。判断に使えるのは、次の節で見るその歯の場所の状態のほうです。

07リスクと、起きうること

エビデンス:弱 重篤な有害事象は報告されておらず、大半の試験で「特記すべきことなく経過した」とされています。報告された合併症は次のとおりです。

  • 抜糸のときに、治癒が遅れて頬側の骨の板が部分的に見えている状態になることがあります
  • 術後に痛みと腫れが出ることがあります
  • 歯ぐきに中等度の光沢・赤み・むくみが出ることがあります
  • ふたに使った膜が露出し、詰めた材料が部分的に失われることがあります
  • 保存した抜歯窩の歯の付け根あたりに、線維性の癒着が生じることがあります

根拠|同じコクランレビューの有害事象の項から。重篤な有害事象の報告はありませんでした。
Atieh MA, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021;4(4):CD010176. PMID 33899930

痛みや腫れが抜歯単独と比べてどれだけ増えるのかは、数字で答えられません。患者さんが答える形の評価(痛み・生活への支障など)を調べた試験がごく限られており、報告があるのは自家血由来の製剤を使った2試験だけで、そこでは処置群と対照群が同等でした。それ以外の術式については報告がありません。

08受けるかどうかを分ける、4つの問い

研究から言えることを、判断の形に置き直します。

1. 将来、そこにインプラントを検討していますか。
検討していないなら、この処置の目的(インプラントを入れる場所の骨を残す)が消えます。入れ歯やブリッジを予定している場合、この処置が結果を良くするという証拠は示されていません。

2. その部位の頬側の骨は、厚いですか、薄いですか。
CTで測れます。厚ければ、放っておいても減りは小さいという報告があります(上の前歯で中央値1.1mm)。薄ければ減りは大きい。まず自分がどちらかを知ってから考える。ここを飛ばした判断は、当たるかどうかが運になります。

3. 「後で骨造成をしなくて済む」と説明されていませんか。
それを裏づける結果は、現時点で示されていません(信頼区間 0.29〜1.62)。この説明が決め手になっているなら、決め手として弱いです。

4. 抜く日までに決めなければいけないのは事実です。ただし、決め方は選べます。
抜歯と同時にしかできない処置なので、期限があるのは本当です。一方で、抜歯の日そのものを後ろにずらすことは、多くの場合できます。痛みや感染で急ぐ理由がなければ、CTを撮って、部位の状態を見てから抜く日を決める。そのための数日は、たいてい取れます。

09受けなくてよい場合があります

はっきり書いておきます。この処置を受けない選択は、まっとうな選択肢です。

  • インプラントを検討していない場合
  • 頬側の骨が厚く、痩せ方が小さいと見込まれる部位の場合
  • 費用の負担が重く、その分をインプラント本体や別の治療に充てたい場合

抜歯単独を選んだあとで骨が足りなくなったら、そのときに骨を造る方法があります。その選択肢が消えるわけではありません。造る方法と造らない方法の比較は、別の記事にまとめてあります(→ 骨が足りないと、インプラントは無理?)。

逆に、考えてみる価値があるのは、1と2の両方が当てはまるときです。将来そこにインプラントを検討していて、かつCTで見た骨の状態から、抜いたあとの変化が大きいと見込まれるとき。それでも「必ず得をする」とは言えません。得をする確率が上がる、という程度の話です。

10費用

当院でこの処置を行う場合の費用は、100,000円(税込)です。骨造成と同じ扱いにしています。

  • 自由診療です(公的医療保険は適用されません)
  • 回数・期間:抜歯と同時に1回行います。その後インプラントを埋入するまでの治癒期間は、部位と骨の状態で変わるため、診察時にご説明します
  • リスク・副作用:上の「リスクと、起きうること」に記載のとおりです
  • お問い合わせ:LINEまたはWebの相談フォームから承ります

費用で方針が変わらないようにしています。骨造成と同額にしているのは、「造るほうが儲かるから造る」「保存したほうが儲かるから保存する」という力が働かないようにするためです。

11抜く前に、CTを撮ってください

この記事の結論はひとつです。

抜く前に、その部位の頬側の骨がどれだけあるかをCTで見る。それから決める。

痩せる量も、処置で差がつく幅も、部位の状態で変わります。見ないまま「抜くと痩せるから入れておきましょう」で決めるのは、全員に同じ答えを配ることになります。逆に「効果は不確実らしいから断ろう」も、同じく自分の口を見ていません。

この記事のまとめ
  • 抜くと骨は痩せます。6か月で幅が平均3.79mm・29〜63%(Tan 2012)。その多くは最初の3〜6か月に集中します。
  • 痩せ方は部位で変わります。頬側の骨の壁が1mm以下だと中央値7.5mm、1mmより厚いと中央値1.1mm(Chappuis 2013・上の前歯)。CTで測れば分かります
  • 処置をすると幅1.18mm・高さ1.35mm 痩せ方が小さい。ただしコクランはこの結果の確実性を「非常に低い」と評価しています。
  • 後で骨造成が要るかどうかに、差は示されていません(0.68・95%信頼区間 0.29〜1.62)。「効果が無い」ではなく「そこまでは確かめられていない」です。
  • 受けない選択は、まっとうな選択肢です。断ったあとで骨が足りなくなっても、そのときに造る方法は残ります。

当院では、抜歯の前にCTで骨の状態を確認したうえで、この処置を受ける場合と受けない場合の見通しをそれぞれご説明します。その日に決めていただく必要はありません。他院で抜歯の予定が決まっている方のご相談も承ります。

ご相談はLINEまたはWebからお申し込みください。

参考文献
  1. Atieh MA, Alsabeeha NH, Payne AG, Ali S, Faggion CM Jr, Esposito M. Interventions for replacing missing teeth: alveolar ridge preservation techniques for dental implant site development. Cochrane Database Syst Rev. 2021;4(4):CD010176.(無作為化比較試験16件・426名・524抜歯窩。異種骨と抜歯単独を比べた6試験で幅 −1.18mm・高さ −1.35mm、いずれも確実性 very low。追加の骨造成の必要性はリスク比0.68〔0.29〜1.62〕)PMID 33899930
  2. Avila-Ortiz G, Chambrone L, Vignoletti F. Effect of alveolar ridge preservation interventions following tooth extraction: A systematic review and meta-analysis. J Clin Periodontol. 2019;46 Suppl 21:195-223.(25論文・22の無作為化比較試験のSR/MA。水平1.99mm・頬側の垂直1.72mm)PMID 30623987
  3. Tan WL, Wong TL, Wong MC, Lang NP. A systematic review of post-extractional alveolar hard and soft tissue dimensional changes in humans. Clin Oral Implants Res. 2012;23 Suppl 5:1-21.(20研究のシステマティックレビュー。6か月で水平29〜63%・垂直11〜22%)PMID 22211303
  4. Couso-Queiruga E, Stuhr S, Tattan M, Chambrone L, Avila-Ortiz G. Post-extraction dimensional changes: A systematic review and meta-analysis. J Clin Periodontol. 2021;48(1):126-144.(28論文・うち20論文で定量解析。大臼歯部3.61mm・非大臼歯部2.54mm)PMID 33067890
  5. Chappuis V, Engel O, Reyes M, Shahim K, Nolte LP, Buser D. Ridge alterations post-extraction in the esthetic zone: a 3D analysis with CBCT. J Dent Res. 2013;92(12 Suppl):195S-201S.(前向き研究39名39部位・CBCTの3D重ね合わせ。頬側骨壁1mm以下で中央値7.5mm・1mm超で中央値1.1mm)PMID 24158340
※本記事で紹介した研究知見は一般的なものであり、個々の患者さんの結果を保証するものではありません。実際の状態や治療方針は、診察・検査のうえで判断します。

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※インプラント治療は自由診療(保険適用外)です。費用・リスク・副作用はインプラントのご案内に記載しています。

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