後悔した人は、何を後悔した?
- 「後悔したか」を直接測った研究は見当たりません。分かっているのは、期待と結果がどこでズレやすいかです。
- 最も大きいズレは「どのくらいもつか」。「一生もつ」と考えていた人が24〜59%いました(オーストリアの3調査)。
- 入れた後に差がつきます。粘膜炎のあった方の5年後の周囲炎はメンテナンスを受け続けた群18%・受けなかった群44%でした。
- 喫煙と歯周病の既往は、決める前に分かる条件です。該当する場合は、歯周病の治療を先に行う、禁煙をお願いする、といった対応をとります。
「インプラント 後悔」は、とても多く検索されている言葉です。決める前に、うまくいかなかった人の話を先に知っておきたいという気持ちは自然なものだと思います。
ただ、この問いに研究データで答えようとすると、最初に困ることがあります。
01「後悔」を測った研究は、ほとんどありません
研究が見当たらない「インプラントにしたことを後悔したか」を直接調べた研究は、見つけられませんでした。検索する人はこれだけ多いのに、そこを測った研究がないというのが現状です。
代わりに分かっているのは、治療前の期待と、治療後の結果が、どこでズレやすいかです。この記事はそちらを扱います。研究が答えていない部分については、答えていないと書きます。
※以下で紹介する調査は、いずれも海外で行われたものです。日本の患者さんを対象にしたものではないため、傾向として読んでください。
02ズレ① どのくらいもつか
エビデンス:中 オーストリアで行われた3つの調査では、「インプラントは一生もつ」と考えていた人が24〜59%いました(Yao 2014・観察研究10件のシステマティックレビューに収載)。ドイツの別の調査(n=315)では、「25年より長くもつ」と答えた人は7%で、最も多かったのは「10〜20年」(66%)でした。
同じ説明を聞いても、「一生の買い物」として受け取る人と、「10年から20年の設備」として受け取る人がいます。前者の受け取り方をしたまま治療が終わると、10年目に何かが起きたときの意味が変わります。後者にとっては想定の範囲内でも、前者にとっては聞いていなかった話になります。
03ズレ② 見た目
エビデンス:弱 ブラジルで行われた小規模な研究(n=52)では、治療前の期待と治療後の満足を同じものさしで比べています。全体としては大きな差がありませんでしたが、統計的にはっきり「期待の方が高かった」と出たのは、見た目(審美)だけでした(de Lima 2012)。
※1件・52名の研究です。「見た目で必ずがっかりする」という意味ではありません。期待が最も高くなりやすい領域はどこか、という手がかりとして読んでください。
噛めるかどうかは噛めば分かりますが、見た目には決まったものさしがありません。ご自身の中にある元の歯のイメージと比べることになるので、基準が人によって違い、しかも本人にも言葉にしにくいものです。とくに前歯では、歯そのものの形や色より、歯ぐきのライン、歯と歯のあいだの三角形の隙間が印象を決めます。ここは骨と歯ぐきの状態に左右され、治療計画の段階でどこまで再現できるかがおおよそ決まります。
当院では、前歯のように見た目が結果を左右する場所では、どこまで再現できて、どこからは難しいのかを、治療を決めていただく前にお伝えしています。できあがってから確認する順番にすると、直しようがなくなるためです。
04ズレ③ 入れた後
エビデンス:強 インプラントの周りには、歯周病に似た炎症(インプラント周囲炎)が起こることがあります。統一された診断基準で20件の調査をまとめた解析では、患者さんの25.0%、インプラント単位では18.0%に周囲炎が認められたと報告されています(Reis 2025・システマティックレビュー/メタ分析)。
※有病率はどこからを病気とするかの基準で大きく変わります。別の解析では患者単位で22%、19.5%という報告もあります。「◯%です」と言い切れる数字ではありません。
ただ、この数字は全員に一律にかかるものではありません。誰に起きているのかを見ると、はっきりした偏りがあります。
関連は高い/因果は低い すでに歯ぐきに炎症があった80名を5年間追った研究では、定期メンテナンスを受け続けた群では18%、受けなかった群では44%が周囲炎に進みました(Costa 2012・前向き追跡)。
※受けるかどうかは本人が選んでいます(くじ引きで分けた研究ではありません)。通い続ける方はもともと清掃の習慣が良い可能性があるため、 この差のすべてがメンテナンスによるものとは言い切れません。それでも、入れた後の通い方で結果が変わるという点は、複数の研究が一致して示しています。
インプラントには歯根膜がないため、異常が起きても痛みで気づきにくいという事情もあります。治療費のほかに、通う時間と費用が毎年かかり続けます。この部分を聞いていなかった、という形の食い違いが起こりえます。
05後悔しやすい条件は、先に分かることが多い
エビデンス:中 周囲炎になりやすさに関わる条件のうち、はっきりしているものが2つあります。
どちらも、治療を決める前に分かることです。喫煙されているか、歯を失った原因が歯周病かどうかは、初診の段階で確認できます。 該当する場合は、歯周病の治療を先に済ませる、手術の前後は禁煙をお願いする、メンテナンスの間隔を短くする、といった対応をとります。
※これらは「該当したらインプラントができない」という意味ではありません。該当する方でも治療を受けておられます。 該当するかどうかを治療の前に確認し、対応を決めておくために挙げています。
06決める前に、確認しておきたいこと
ここまでのズレは、いずれも治療を決める前の説明で埋められるものでした。当院が相談に時間をかけているのはそのためです。 相談のときには、次のことを確認しておいてください。当院で受けるかどうかに関わらず、どこでも確認できるはずのことです。
- 総額はいくらか。どこまで含まれていて、何が含まれていないか。追加でかかりうるものは何か。
- 入れた後、毎年いくらかかるか。メンテナンスの費用と間隔。
- 自分の場合、何が不利に働くか。喫煙、歯周病の既往、歯ぎしり、噛み合わせ。
- 見た目はどこまで再現できるか。とくに前歯のとき。難しい部分はどこか。
- うまくいかなかったとき、どうなるのか。誰が、どこまで、どういう条件で対応するのか。
当院の相談では、CTを撮ったうえで選択肢と総額をお伝えし、その日にお決めいただくことは求めていません。持ち帰って考えていただくためです。他院で受けられた治療計画についてのご相談も承っています。
- 「後悔したか」を直接測った研究は見当たりません。分かっているのは、期待と結果がどこでズレやすいかです。
- 最も大きいズレは「どのくらいもつか」。「一生もつ」と考えていた人が24〜59%いました(Yao 2014・オーストリアの3調査)。
- 治療後の満足が期待を下回りやすいのは見た目でした(de Lima 2012・n=52)。決める前に、どこまで再現できるかを確認してください。
- 入れた後に差がつきます。粘膜炎のあった方の5年後の周囲炎は、メンテナンスを受け続けた群18%・受けなかった群44%でした(Costa 2012)。
- 喫煙と歯周病の既往は、決める前に分かる条件です。該当する場合は、歯周病の治療を先に行う、禁煙をお願いする、といった対応をとります。
インプラント治療は自由診療(保険適用外)です。費用・標準的な回数と期間・リスクと副作用はインプラントのご案内に記載しています。判断に迷われている段階でのご相談で構いません。
- Yao J, Tang H, Gao XL, McGrath C, Mattheos N. Patients' expectations to dental implant: a systematic review of the literature. Health Qual Life Outcomes. 2014;12:153.(観察研究10件のSR。収載されたHof 2012 n=150/Tepper 2003 n=1,000/Pommer 2011 n=1,000/Rustemeyer 2007 n=315=いずれも欧州)PMID 25358599
- de Lima EA, et al. 治療前の期待と治療後の満足のVAS比較(n=52・ブラジル)。Yao 2014 に収載。有意差は審美のみ。
- Reis INR, Huamán-Mendoza AA, Ramadan D, et al. The prevalence of peri-implant mucositis and peri-implantitis based on the world workshop criteria: a systematic review and meta-analysis. J Dent. 2025;160:105914.(横断研究20件のSR/MA)PMID 40523497
- Costa FO, et al. Peri-implant disease in subjects with and without preventive maintenance: a 5-year follow-up. J Clin Periodontol. 2012;39(2):173-181.(5年間の前向き追跡・粘膜炎のあった80名/メンテあり39・なし41・OR 5.92。無作為化はされていない)PMID 22111654
- Heitz-Mayfield LJA, Huynh-Ba G. History of treated periodontitis and smoking as risks for implant therapy. Int J Oral Maxillofac Implants. 2009;24 Suppl:39-68.(レビュー。著者が交絡調整の不足を明記)PMID 19885434
- Serroni M, Borgnakke WS, Romano L, et al. History of periodontitis as a risk factor for implant failure and incidence of peri-implantitis: a systematic review, meta-analysis, and trial sequential analysis of prospective cohort studies. Clin Implant Dent Relat Res. 2024;26:1-17.(著者はエビデンスの確からしさをlowと評価)doi:10.1111/cid.13330
- Derks J, Tomasi C. Peri-implant health and disease. A systematic review of current epidemiology. J Clin Periodontol. 2015;42 Suppl 16:S158-71.(患者単位22%・CI 14-30)PMID 25495683
