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CHAPTER 2比べる

入れ歯とインプラント、どっちが歯を守る?

この記事で分かること
  1. 比べるべきは装置が何年もつかではなく、残っている自分の歯がどうなったか。装置は作り直せても、隣の歯は作り直せない。
  2. 同じ研究では、隣の歯の10年生存が入れ歯 約56% < 何もしない 約81% < ブリッジ 約92%補えば守れる、とは限らない
  3. 効いているのは「インプラントだから」ではなく「削らない・バネをかけない」こと。歯をほとんど削らない接着ブリッジはインプラントと同等という報告もある。

歯を失ったあとに補う方法は、大きく3つあります。部分入れ歯、ブリッジ、インプラントです。どれを選ぶかを考えるとき、多くの場合は「その装置が何年もつか」「いくらかかるか」で比べます。

この記事では、別の見方で比べます。その方法を選んだとき、残っている自分の歯がどうなったかです。補う装置は作り直せますが、隣の歯は作り直せないからです。

01比べるのは「装置の寿命」ではなく「残っている歯」

3つの方法は、隣の歯への関わり方がまったく違います。部分入れ歯はバネ(クラスプ)をかけて支えます。ブリッジは両隣を削って土台にします。インプラントは隣の歯に触りません

装置そのものの寿命で比べると、この違いは見えません。たとえばブリッジは10年で約89%が使えていたと報告されていますが、「問題なく使えていた」割合は約71%まで下がります(Tan/Pjetursson 2004)。装置が残っていることと、支えている歯が無事なことは別の話です。

02部分入れ歯:バネのかかる歯に負担が集まる

エビデンス:強 46の研究をまとめた解析では、バネのかかる歯(支台歯)は、そうでない歯より抜歯に至るリスクが高いと報告されています。研究では抜歯となる「オッズ」が約2倍(オッズ比1.99)でした(Drummond 2024)。むし歯も起こりやすく、支台歯のむし歯は10年で約60%という報告があります。

※オッズ比は「何倍起こりやすいか」をそのまま表す数字ではありません。ここでは「支台歯のほうが抜歯に至りやすい傾向がある」という向きを示すものとしてご覧ください。

03ブリッジ:両隣を削るという代償

エビデンス:強 ブリッジは固定式で、使い心地の評価は高い方法です。ただし、支えにするために健康な両隣の歯を削ります。削った歯には生物学的な負担が残り、神経が失活する(歯の神経が死ぬ)ことが10年で約10%、根の先に病変ができる割合は単独の被せ物のおよそ2倍と報告されています(Tan/Pjetursson 2004、Tsotsos 2023)。

インプラントはこの負担を隣の歯に与えません。ただし問題が起きなくなるわけではなく、ねじのゆるみや被せ物の欠けといった技術的なトラブルの側へ移ることが知られています(Pjetursson 2007)。

04同じ研究で比べると、順番はこうなります

ここまでは方法ごとの研究でした。同じ研究のなかで、同じ条件の隣の歯を追いかけた報告もあります。

隣の歯が10年後に残っていた割合0%25%50%75%100%56%部分入れ歯81%何もしない92%ブリッジ入れ歯は「何もしない」より低い=補えば守れる、とは限らない
出典:Aquilino 2001(J Prosthet Dent・後ろ向き研究 n=317)。同じ研究のなかでの直接比較です。インプラントはこの研究に含まれないため、グラフには入れていません(本文で別の研究として扱います)。 一般の研究知見であり、個々の結果を保証するものではありません。

エビデンス:中 10年後に隣の歯が残っていた割合は、部分入れ歯で約56%、何もしなかった場合で約81%、ブリッジで約92%でした(Aquilino 2001・後ろ向き研究 n=317)。

ここがいちばん大事な点です部分入れ歯は、何もしなかった場合よりも低いという結果です。つまり「補えば歯を守れる」とは限らないということになります。補い方によっては、残っている歯の負担が増えることがあります。

05後ろに歯がない場合(遊離端)

いちばん奥の歯を失って後ろに支えがない状態を遊離端といいます。この場合、ブリッジは適応外です。入れ歯は手前の歯だけで支えることになり、負担が集中しやすくなります。

エビデンス:弱 ある研究では、10年後に残っている歯が保たれた割合はインプラントで支えたケースで約70%、遊離端の入れ歯で約16%と、大きな差がみられました(Tsujioka 2024・傾向スコア一致 n=58)。

この数字は、そのままは受け取れません小規模で後ろ向きの研究であり、もともと口の状態が良い人がインプラントを選んでいた可能性(選択バイアス)を強く含みます。実際、補綴が触れてもいない反対側の歯にまで差が及んでいます。 向きは確からしいものの、差の大きさは実際より大きく出ていると考えられます。参考程度にご覧ください。

06守っているのは「削らない・バネをかけない」こと

ここまでを並べると、インプラントが有利に見えるかもしれません。ただ、研究を細かく見ると、効いているのは「インプラントだから」ではありません

接着ブリッジ = インプラントと同等
歯をほとんど削らない接着ブリッジでは、隣の歯が保たれた割合がインプラントと同等だったと報告されています。一方、大きく削る従来のブリッジは、それらより低い結果でした。
Okuni 2022(J Dent・後ろ向き研究 n=514)。一般の研究知見であり、個々の結果を保証するものではありません。

エビデンス:中 つまり、残っている歯を守っているのは「削らないこと」「バネをかけないこと」であって、インプラントという方法そのものではありません。インプラントはそれを最大限にできる方法のひとつ、という位置づけになります。

だから当院は「インプラントありき」で考えません。削らずに済む方法があるなら、そちらをお勧めします。

07ただし、これも一律ではありません

ここまでの話には、逆向きの報告もあります。判断の材料として、あわせてお伝えします。

入れ歯が必ず歯を壊すわけではありません

エビデンス:中 厳しく定期管理を続けた条件では、入れ歯を使っていても歯ぐきの状態が悪化せず、むし歯も抑えられていたという報告があります(Bergman 1982ほか)。問題は「入れ歯だから」ではなく、手入れと定期管理が現実にどこまで続くかにあります。

インプラントが隣の歯を守るとは限りません

エビデンス:弱 あるコホート研究では、インプラントの隣の歯のほうが、ブリッジの隣の歯より失われたという逆の結果も出ています(歯の根が割れることが主な原因でした)。3本連結のブリッジを調べた別の解析では、支台歯の生存に差がありませんでした。

「インプラントにすれば隣の歯が守られる」と言い切れる段階ではない、というのが現時点での正確な言い方です。

この記事のまとめ
  • 比べるべきは装置の寿命ではなく、残っている歯。装置は作り直せますが、隣の歯は作り直せません。
  • 同じ研究では 入れ歯 約56% < 何もしない 約81% < ブリッジ 約92%(隣の歯の10年生存)。補えば守れるとは限りません。
  • 効いているのは「削らない・バネをかけない」こと。接着ブリッジはインプラントと同等という報告もあります。
  • 逆の報告もあります。入れ歯も管理次第、インプラントも万能ではありません。

どの方法が向いているかは、失った場所と本数、残っている歯の状態、手入れをどこまで続けられるかで変わります。一般論ではなく、ご自身の口で何が起きているかを見てから決めるほうが確かです。相談では、その材料をお渡しします。

参考文献
  1. Aquilino SA, et al. Ten-year survival rates of teeth adjacent to treated and untreated posterior bounded edentulous spaces. J Prosthet Dent. 2001;85(5):455-460.(後ろ向き研究 n=317)PMID 11357071
  2. Drummond J, et al. Survival and complications of abutment teeth of removable partial dentures: a systematic review and meta-analysis. J Prosthet Dent. 2024;134(5):1664-1685.(46研究のSR/MA)PMID 39043477
  3. Tan K, Pjetursson BE, et al. A systematic review of the survival and complication rates of fixed dental prostheses after an observation period of at least 5 years. Clin Oral Implants Res. 2004;15(6):654-666. PMID 15533124
  4. Tsotsos S, et al. Biological complications of abutment teeth. BMC Oral Health. 2023. DOI 10.1186/s12903-023-02826-1
  5. Pjetursson BE, et al. Comparison of survival and complication rates of tooth-supported and implant-supported prostheses. Clin Oral Implants Res. 2007;18(S3):97-113. PMID 17594374
  6. Okuni R, et al. Survival of abutment teeth of resin-bonded and conventional fixed partial dentures and implant-supported prostheses. J Dent. 2022;116:103911.(後ろ向き研究 n=514)PMID 34864137
  7. Tsujioka Y, et al. Survival of remaining teeth in implant-supported versus removable partial denture treatment for Kennedy Class I/II. Clin Oral Implants Res. 2024;35(5):526-533.(傾向スコア一致 n=58)PMID 38363047
  8. Bergman B, et al. A 25 year longitudinal study of patients treated with removable partial dentures. J Prosthet Dent. 1982;48(5):506-514.(前向き n=27・理想的な定期管理下)PMID 6754910
  9. Molinero-Mourelle P, et al. Clin Oral Investig. 2022;26(10):6003-6014.(対抗知見)PMID 35840738
※本記事で紹介した研究知見は一般的なものであり、個々の患者さんの結果を保証するものではありません。実際の状態や治療方針は、診察・検査のうえで判断します。

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