9月から銀歯の値段が下がります。じゃあ、8月に治した人は損をしたの?
- 保険の治療費は厚生労働大臣が定めるところにより算定すると法律に書かれています(健康保険法76条2項)。医院に値段を決める余地はありません。
- 歯科用の金属だけは、3か月ごと(3・6・9・12月)に、変動幅にかかわらず決め直されます。9月の値段は令和8年4月〜6月の金属相場で決まりました。
- 9月1日からの差は、大臼歯の銀歯1本の材料料で181点=3割負担で543円です。
- この1年では3月・6月に上がり、9月に下がりました。待っても下がるとは限りません。
治療が終わって、窓口で金額を聞いたときのことです。前に同じような治療をしたときより高い気がする。そう思ったことがあっても、その場では聞きにくいものだと思います。
2026年9月1日から、保険で使う歯科用の金属の値段が下がります。銀歯によく使われる金銀パラジウム合金は、1グラムあたり5,746円から5,232円になります。8.9%の引き下げです。
そして12月には、また変わります。今年の3月にも6月にも変わりました。この記事では、なぜ3か月ごとに変わるのか、実際にいくら動くのか、そして「9月まで待ったほうがいいのか」を、厚生労働省が出した通知の原本から確かめていきます。
01「同じ処置なのに、前より高い」の答え
保険の治療の金額を決めているのは、医院ではありません。
法令(健康保険法) 健康保険法の第76条第2項は、こう書いています。「前項の療養の給付に要する費用の額は、厚生労働大臣が定めるところにより、算定するものとする」。金属の値段も同じで、「特定保険医療材料及びその材料価格(材料価格基準)」という厚生労働省の告示(平成20年厚生労働省告示第61号)に、1グラムあたりいくらと書かれています。
患者さんが窓口で払う金額も、法律で決まっています。同じ法律の第74条第1項が、算定した額に「百分の三十」(70歳未満の場合)を掛けた額を一部負担金として支払う、と定めています。
同じ条文は、医院の側についても書いています。保険医療機関は一部負担金の「支払を受けるべきものとし」とあり、医院の判断で割り引く仕組みにはなっていません。上げることも、下げることもできません。同じ治療なら、大阪でも北海道でも同じ金額です。
金額が前回と違ったとき、そこに医院の判断は入っていません。動いたのは国が決めている値段のほうです。
023か月ごとに、決め直す仕組みです
金属の値段だけは、2年に1度の診療報酬改定を待たずに動きます。中央社会保険医療協議会(中医協)に出された資料に、その仕組みが書かれています。
「変動幅にかかわらず」という一言が効いています。何%以上動いたら見直す、ではありません。3月・6月・9月・12月に、そのつど決め直します。
もとになるのは、金・銀・パラジウムの取引価格の平均です。同じ資料によれば、9月の価格に使われたのは令和8年4月から6月までの相場で、9月1日の金額は春の金属相場から決まっています。
この決定を医院に知らせる文書が、下の事務連絡です。

歯科医院が使う点数の一覧表にも、この3か月が入っています。クインテッセンス出版が毎回出している一覧表には「※本点数は2026年9月1日から2026年11月30日まで」という但し書きが刷り込まれています。3か月で差し替わることが、最初から前提になっている表です。
039月に、いくら動くのか
公的文書(厚生労働省の通知) 厚生労働省保険局医療課の事務連絡(令和8年7月31日)の別紙が、材料料の新しい点数です。金銀パラジウム合金を使う場合を抜き出します。

9月1日に変わるのは、この材料料の部分だけです。事務連絡が書き換えているのは材料料の別紙であって、治療そのものの技術料は動きません。
04では、8月に治した人は損をしたのか
差は出ています。いくら違うのかを書きます。
大臼歯の銀歯1本の材料料は、この1年でこう動きました。同じ事務連絡には毎回、新旧の対照表が付いているので、過去の点数も原本から取れます。
6月から8月のあいだに治療した方が、この1年でいちばん高い時期に当たっています。9月に治療する方との差は543円、昨年12月に治療した方との差は2,055円です。
公的文書(中医協・厚生労働省の資料) もう少し長い目でも見ておきます。金属そのものの値段(1グラムあたりの告示価格)なら、20年分を資料からたどれます。
2006年4月は1グラム430円、2026年9月は5,232円です。20年で約12倍になりました。ずっと上がり続けたわけではありません。48回の改定のうち、12回は引き下げ、6回は据え置きです。見直しの間隔も動いていて、20年前は6か月ごと、いまは3か月ごとです。
05では、9月まで待てば得なのか
2つの理由から、待つ理由にはなりにくいと考えています。
1つめは、次にどちらへ動くか決まっていないことです。上の図のとおり、この1年では3月に上がり、6月にも上がり、9月に下がりました。12月の値段は、これからの金属相場で決まります。「下がり続けている」わけではないので、次を待って得をするかどうかは、待ってみるまで分かりません。
2つめは、待っているあいだに、処置の区分そのものが変わることがあるからです。むし歯の範囲が広がると、詰め物では対応できず、覆う形になります。9月からの材料料で比べると、大臼歯のインレー(単純なもの)は629点、大臼歯の全部金属冠は1,842点です。差は1,213点、3割負担で3,639円。改定による543円の差の、6倍を超えます。技術料の差はここに含んでいないので、実際の差はもう少し開きます。
数字で言えるのはここまでです。むし歯がどのくらいの速さで広がるかは人によって違いますし、この記事はそれを煽るために書いたものではありません。ただ、金額の桁を並べると、数百円のために時期をずらす判断は、あまり割に合わないように見えます。
06白い被せ物は、9月に動くのか
動きません。
同じ事務連絡の別紙で、CAD/CAM冠(白い樹脂の被せ物)の材料料を6月適用の版と見比べると、前歯328点、小臼歯169点と142点、大臼歯273点と615点で、1点も変わっていません。3か月ごとの随時改定は、金・銀・パラジウムを含む材料についての仕組みだからです。
公的文書(改定の概要資料) 保険で白い被せ物を使える範囲は、この6月の改定で広がりました。厚生労働省の「令和8年度診療報酬改定の概要【歯科】」(令和8年3月5日版)によれば、大臼歯にCAD/CAM冠を使う条件だった「反対側に大臼歯の噛み合わせがあること」等の要件が削除され、「大臼歯にCAD/CAM冠用材料(Ⅲ)又は(Ⅴ)を使用する場合」に整理されました。この資料は概要であり、資料自身が詳細は告示・通知で確認するようにと注記しています。
07領収書を見るとき
3つだけ、確かめる場所があります。
① 金属を使う処置かどうか。9月に動いたのは、金属を使う処置の材料料です。詰め物の材料が樹脂なら、この改定では動いていません。
② いつの3か月か。保険の点数表は3か月で入れ替わります。「去年の金額」と比べているなら、そのあいだに国が3回、決め直しています。
③ 差の桁。大臼歯の銀歯1本で、3割負担なら543円です。それ以上の差があるなら、改定とは別の理由(処置の内容、本数、その日の検査や処置)があります。
金額の内訳は領収書に書いてあります。領収書は必ずお渡ししておりますので、疑問があればすぐにお答えします。遠慮なく聞いてください。
- 保険の治療費は、厚生労働大臣が定めるところにより算定すると法律(健康保険法76条2項)に書かれています。医院に値段を決める余地はありません
- 歯科用の金属だけは、3か月ごと(3・6・9・12月)に、変動幅にかかわらず決め直されます。9月の値段は、令和8年4月〜6月の金属相場で決まりました
- 9月1日からの差は、大臼歯の銀歯1本の材料料で181点=3割負担で543円です
- この1年では3月・6月に上がり、9月に下がりました。待っても下がるとは限らず、むし歯が広がって処置の区分が変わると、3割負担で3,639円の差が生まれます
- 健康保険法(大正11年法律第70号)第76条第2項・第74条第1項.(e-Gov法令検索 211AC0000000070・2026-08-26に本文を取得)https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070
- 特定保険医療材料及びその材料価格(材料価格基準)平成20年厚生労働省告示第61号.(下記の事務連絡が改正対象として明記しているもの)
- 中央社会保険医療協議会 総会(第653回)令和8年7月22日 資料 総-3「歯科用貴金属価格の随時改定について」.(告示価格案・素材価格の推移/2026-08-26に開封)https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001726221.pdf
- 厚生労働省保険局医療課 事務連絡 令和8年7月31日「『特定保険医療材料及びその材料価格(材料価格基準)の一部改正に伴う特定保険医療材料料(使用歯科材料料)の算定について』の一部改正について」.(令和8年9月1日から適用・別紙1に新旧の材料料)https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/tokaihokuriku/000496386.pdf
- 同 事務連絡 令和8年4月30日.(令和8年6月1日から適用)https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/tokaihokuriku/000483768.pdf
- 同 事務連絡 令和8年1月30日.(令和8年3月1日から適用)https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001647190.pdf
- 厚生労働省保険局医療課「令和8年度診療報酬改定の概要【歯科】」令和8年3月5日版・55頁.(CAD/CAM冠及びCAD/CAMインレーの適応拡大。資料自身が「詳細は今後正式に発出される告示・通知等を確認」と注記)https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001671913.pdf
- クインテッセンス出版「9月1日からの歯科用貴金属価格改定にともなう新点数」.(技術料込みの点数表・二次資料。本文の数値は使わず、有効期限の印字のみ参照)https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/rensai/sikakikinzoku_web_2609.pdf
